デジタルデータの後処理については詳しく述べるスペースがありませが、詳細は拙著「印刷・出力実戦マスター」(グラフィック社刊・4500円)に実践的なノウハウが満載されていますのでご参照ください。
デジタルデータの特殊性から従来の銀塩写真のように撮りっぱなしで後工程に処理を任せるわけにはいきません。デジタル画像の品質を決めるのはアナログからデジタルに変換する時点が全てですから、従来スキャナオペレーターが担っていた部分が前倒しでカメラ側にかかってきます。
フルオート化したカメラ自体がその責任を果たすか、カメラを操作する人間がカメラのドライブソフトなり画像処理ソフトなりを駆使して最適化しなければなりません。まず出力機を含めた出力条件を知っていなければ作業をすることは不可能です。出力画像サイズはどのくらいなのか、回転はするのかしないのか、画像処理を前提にしたデータかどうか、その場合変形処理が含まれるのかどうか、クライアントの画像品質に対する要求度はどのくらいなのか、作業時間に余裕はあるのか無いのか等、撮影時点で十分に検討しておかなければ使いものにならないデータを後工程に渡すことになる危険がいっぱいです。
最重要事項は出力形態と実使用サイズです。印刷するのかカラープリンター出力するのか、ポジフィルム出力かビデオ出力か、そしてどのくらいの大きさで使うのかでカメラ自体の選択が変わります。
また圧縮をかけて保存して良いのか無圧縮でいくべきか、アンシャープマスク(シャープネス)はどのくらいが適当か、かけない方がよいのか等も後工程との絡みで決まってくるわけです。
幸い、デジタルデータに対して経験を積んだ技術力のある印刷会社ではRGBデータを製版・印刷サイドでその会社の印刷機に適合したプロセスカラー(CMYKデータ)に変換するサービス(ソフトスキャニングサービス)を受け持つべきだと言う機運が持ち上がりつつありますので、きれいなRGBデータを作っておけばきれいに印刷される可能性は広がっています。
同一撮影条件下で撮影したグレイチャートのカットは必ず添付しておくこと(画面の隅にいれるのではなく中心部にいれたチャート専用カットを作る)。ポジフィルムやカラープリントでの色見本を添付すればさらに効率的でしょう。
比較的画素数の少ないデジタルデータは後処理で回転や変形をかけると画像が乱れます。最初からレイアウトが分かっていれば撮影時にカメラを回転し、寄り引きして使用レイアウトになるべく近ずけておきましょう。撮影後の変倍は原則として120%前後までとします。マトリックスフィルターを使用しない3ショットタイプや3CCDタイプ、スキャナタイプの画像データは条件によっては200〜400%くらいの拡大も可能です。200%は実用範囲と申し上げても良いでしょう。
ライティングは大光量を要求される立体スキャナー型のカメラを別にしてデジタル故の特別ライティングテクニックがあるわけではありません。従来通り自由にライティングして良いのですが一つだけ注意しなければいけない点があります。
デジタルカメラであるが故に、ハイライト側をとばしてはダメだと言うことです。通常ほとんどのカメラは0〜255段階(256階調)で画像を出力していますがハイエストライトを255にした時、それより明るい部分は表現されません。
デジタルカメラに使われている受光素子CCDの特性により明るすぎる場合は光の滲みとなってハイライト部分に喰込んできます。画像中の最も明るい部分を255以上にならないように露出を決定すること、それでシャドウ部が0にならないように照明をコントロールすることが標準的なデジタル画像を得るためには重要です。
通常はハイライトポイントを240くらいに置きます(画面の中に白い紙があったとしてその部分の濃度)。シャドウポイントは25くらいにします(画面に黒い紙があったとしてその部分の濃度)。銀塩写真用のライティングのままでは大体この数値をオーバーします。特に光り物の場合などハイエストライトは完全に飛んでしまいます。ライトソースそのものを柔らかくディフューズする必要があります。
これはほぼスキャナーで原稿を取り込んでいるのと同じ作業です。ポジフィルムやカラープリントによって階調を圧縮されていない分、被写体のダイナミックレンジが広すぎてハイライトポイントを決めるのが難しいと言えます。被写体のダイナミックレンジを、デジタルカメラの取り込み可能なダイナミックレンジまで下げると言うことは被写体自体の濃度差を下げるか、照明のライティングコントラストを下げると言うことになります。
広告写真家の使うフィルムがコダックのE6にきり変わってからフィルムのなだらかなハイライト特性とシャドウ特性のせいで、一般にライティグコントラストがかなり上がりましたが、E6以前のE3時代のライティングを応用すれば良いといったら、ベテランの方には分かりやすいかもしれません。
しかし、ダイコメッドデジタルカメラの様にカーブの肩と脚を寝かせてうまくフィルム様の取り込みカーブを設定しているカメラでは上記の注意は当てはまりません。ハイエストライトを飛ばしすぎなければほとんどフィルムでの撮影と同様のテクニックで撮影できます。第2世代機は大部分が同様の取り込み設定カーブを持つようになるでしょう。
フィルムの代わりにデジタル変換用のCCD受光素子(電荷結合素子)を使用しているからといって、必要なレンズの条件が大幅に変わるわけではありません。
フィルムに較べて使用しているCCDのサイズが小さい為、中判以上のデジタルカメラを使用する場合、レンズの中心部だけが使用されることになるのでセンターの解像力が高いレンズを使う必要があります。
大判用のレンズはイメージサークルの広さを要求されるために、周辺部の解像力と中心部の解像力の差をなるべく付けないように作られています。結果としてイメージサークルが小さくて良い小型カメラ用のレンズに較べて解像力にかなり差のあるレンズも多いのです。
またデジタルカメラはフィルムに較べて露出のラチチュードが狭いので、周辺光量の不足するレンズは、はっきり画像に現れてきます。
色収差の少ない、中心部の解像力の高い、周辺光量ムラのないレンズが適当です。絞りのコントロールが正確に細かくできることも重要です。オートフォーカス機能も含めてコンピュータ側からリモートコントロールできる機種は使い勝手が抜群に良くなります。
130万画素前後のデジタルカメラは35ミリフィルムの1/4以下の解像力であるから、35ミリ1眼レフ用の定評のあるレンズを使用している限り、レンズの差をはっきり認識することは難しい。使い勝手からいってもズームレンズとの組み合わせがお薦めです。
400万画素レベルのデジタルカメラは短辺方向で35ミリフィルムの解像力に匹敵する能力を持っているので、レンズの解像力の差は感じとることが可能です。大型カメラや中判カメラのバックとして使う形式が多いだけにレンズの選択は重要です。
アオリをあまり使わないことを前提に35ミリ1眼レフ用の定評のあるレンズを使う方が問題が少ないかもしれません。
3500万画素レベルのデジタルカメラは70×100ミリと6×9サイズをしのぐ受光面を持っているので、アナログの中判カメラ以上の機種のレンズ選択基準が生きてきます。
アオリを多用するかしないか、近距離撮影、クローズアップ、無限遠での撮影が多いか、等の撮影内容に対するファクターが基準になるでしょう。
銀塩フィルム用のフィルターはほとんどのものがそのまま使用できます。照明光源をを変えた場合それぞれの色温度を測って光源用フィルターやカメラ用フィルターで銀塩フィルムの場合は調整してきましたが、デジタルカメラではソフト的に対応しているのでフィルタの必要性を感じていない写真家も多いと思われます。実際には従来どうり使用した方がよいというのが我々の結論です。
CCフィルターでの細かい調整は必要としませんが、LBフィルターを使用した色温度変換やNDフィルター、偏光フィルターなどは併用する価値があります。ソフト的に大きくいじる必要がなくなるので画像の品位を保つことができます。
また最も重要なのは赤外カットフィルターの使い方です。CCD受光部に強力で必要十分な赤外カットフィルターを持っているカメラは良いのですが、全く持っていないか、不十分なフィルターを持った機種が数多くあります。
そのようなカメラで撮影した場合ストロボを使用した場合でも、シャドー部のフレアー、眠さを招きます。画面が何となく青っぽい、コントラストが不足してシャドーにしまりがない、といった現象のほとんどは赤外線のカットが不十分なために起きていると考えて良いでしょう。
赤外カットフィルター、ホットミラーといったフィルターを撮影時に併用する事でほとんど解消します。またデジタルカメラに付属してくる赤外カットフィルターがCCDの赤外領域感度に対して能力不足と思われるときは、より強力なカットオフ機能を持ったフィルタに換えると改善される場合もあります。
短波長側に感度のピークのある銀塩乳剤に対して、長波長側に感度のピークがあるCCD受光素子を使うデジタルカメラとしては、しばらくの間赤外カットは重要なテクニックの一つです。